給水塔
時々、息を呑むほどの夕焼けを目にした日には、僕がまだ幼い頃の、ある記憶が蘇ってくる。
父の背中にしがみついて、砂塵の舞う道路を走っている。
夕暮れの中で父の運転するオートバイから排ガスの匂いとリズミカルなエンジンの振動が僕の体全身を揺らしながら、風の中に溶けていく。
父の背中に片耳を押し当てて、父の温かさを感じながら右側を見れば、斜陽の中に浮かぶ巨大な生き物のような建築物があった。
それはタコのように見えて、イカのようにも見えたし、日によっては何のものにも例えられない、不気味な存在のようにも感じられたことがある。
ある日、友達の家へ遊びに行く途中に通りかかったので、近づいてみたことがあった。
とても大きくて、ところどころにサビが浮いていて、生き物の血が流れるような音が耳に残った。
今、僕はアスファルト舗装の匂いがあたりに漂っている雨上がりの夕暮れの中を、オートバイで走っている。
相変わらずあの給水塔は取り澄まして存在している。
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