フルコンバ

▶ナイトミーティング



いま、私は夜の高速道路をクルージングしている。
オレンジの明かりが等間隔に私の身体を撫でていく。
何だか心持ちが良い。
オーナーによると私の同士が集う会があるとのことで、それはそれはオーナーも随分と前からこの日を待ちわびていたようだ。

私は口を持たぬ。
耳も持たぬ。
しかし、私はエンジンと排気音で音楽を奏で、時には悲痛の叫びをあげることもできる。
ライダーとはスロットルを介して話すことができる。
私に手と足のようなものは全くないが、ライダーの手となり足となることはできる。
どんな暗闇でもオーナーの視線の先を照らしていける。
私は自ら動けないから、オーナーとの信頼関係が大事なのだ。
人馬一体が失われれば、私達はたちまち失速して倒れてしまう不安定な乗り物なのだ。

今日は随分とオーナーの気分も良さそうである。
私は人馬一体を目指して設計されたモーターサイクルだが、今はそれ以上のオーナーとの人馬一体を感じるのだ。

様々なビルの明かりが煌めく地上に出て最初の信号を右に曲がって何やら大きな建物に私は滑り込んだ。
そこには大小、年代、色、様々な同士が整然と並んでいた。
そして愛車を駆るオーナー達が楽しそうに話をしている。
私はエンジンを切られ、一瞬の静寂の後に周囲からたくさんの挨拶が私に向けられたのを確認した。
この声はオーナーには聞こえない。
我々、モーターサイクル同士にしか聞こえないのだ。
咳き込むご老体(きっと、オーナーは調子が悪いとしか思ってないかもしれない)、この場から帰りたくなくて愚図っている子もいる(セルがかかりにくいとオーナーは感じただろう)。
それでも、どのモーターサイクルも結局はオーナーと共に帰るべき場所へ帰るのだ。

ところで、私のオーナーはエンジンを切った後に、私から降りて私の頭(タンク)をポンポンと優しく叩いた後、嬉しそうな足取りで散策に行ってしまった。
私は左隣にいる、私よりも一回り大きいエンジンを変わった形で背負っている彼に声をかけた。

「私はあなた達の意志を継ぐはずのものでした」

…そう寂しく語り始めた彼は、このモーターサイクルのシリーズが、私の「ボクサー」種族の後継として生み出されたこと、新しい環境性能、モーターサイクルの未来を見据えて綿密に造られたこと、最終的に種が途絶えてしまったが、いまでもなお慈悲深い人たちによって、この世界を駆け巡っていることを聞いた。

そう聞いてしまうと何だか申し訳ない気分となってしまった。
結局、ボクサー種族は生きながらえて繁栄しているのだから。

「でもーーいいんです。世界を見ても類を見ない構造で、どこへ行っても私を羨望の眼差しで見てくれます。」 

彼のオーナーが戻ってきた。
どうやらまだ若い。
「それでは」と彼は笑みを浮かべ、ステアリングをカクっと左に倒した。
何も知らないオーナーは丁寧に彼を跨いでゆっくりとクラッチを繋いで夜のビル街へ消えて行った。
いつまでも彼の「さようなら」という排気音が聞こえていた。
私のオーナーが戻ってきたようだ。私も愛されている。それは十分に伝わる。
「いっぱい友達会えて良かったね」とオーナーは独り言のように呟いた。
ありがとう、私は何も返事はできないけれど、貴方の声はちゃんと聞こえてます。
私は嬉しくて、いつも以上に力強くセルモーターを回した。
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週末は森にいます