フルコンバ

避難小屋の約束

 ある山の中腹には、小さな避難小屋があった。その小屋には、月に1度、ある日だけ登ってくるお婆ちゃんがいた。そのお婆ちゃんは登山者の間で密かに有名だった。なにせ彼女は、山頂を目指すことはなく、小屋を隅々まで掃除して、里へと降りていくのだから。

お婆ちゃんはいつものように小屋に入ると、背負っていたザックから掃除道具を取り出し、小屋のすみずみまで掃除を始める。床や壁、窓や戸、どこもかしこも丁寧に掃除していく。そして、小屋の周りに落ちている落ち葉や枯れ枝も拾い集めてしまう。拾い集めた一部の枝や葉っぱで火をおこしてお茶を入れ、一休みするのだ。

そんなお婆ちゃんの姿を見て、登山者たちは感心するばかりだった。誰もが、お婆ちゃんのような優しい心を持ちたいと思っていた。

ある登山者が聞いた話では、お婆ちゃんが毎月のように決まって、登頂せずに山小屋に来ては掃除をして帰る理由に、お婆ちゃんが小屋で再び会いたいと願っている人の存在があることを知った。

夕日が山の頂上に沈んでいくのを見た。避難小屋の磨かれた窓からは、黄昏の光が静かに差し込んでいる。

お婆ちゃんは、「山頂に登ることはないけれど、この景色を見るために毎月登ってくるの。今日もあの人は来なかった」と言った。

登山者たちはお婆ちゃんの話に耳を傾けた。彼女が誰を待ち続けているのか、何故小屋で再会を望んでいるのか、皆が疑問に思っていた。

ある日、お婆ちゃんは山小屋に来た時、登山者たちに嬉しい知らせを伝えた。「今月はあの人が来るようです。もうすぐ会えるんです」とお婆ちゃんは笑顔で言った。登山者たちは、お婆ちゃんがどのようにしてその人と再会するのか、興味津々で彼女を見守っていた。

しかし、その日がやって来ることはなかった。

避難小屋に置かれた登山者ノートには…

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週末は森にいます