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【紀行文】白川郷

序文

HondaGOで借りているハンターカブCT125。このマシンは軽快なエグゾーストノートを響かせながら、飛騨の山間を走っている。僕が次に向かったのは─?

 1995年、登録。ロストテクノロジー
この先、観光車両は通行禁止

観光車両は通行禁止、という看板に戸惑いながらスロットルを開け続けている。

白川郷は合掌造り集落で非常に有名であり、1995年に世界遺産登録がなされた。95年と言えば、Windows95は発売され、多くの人々にインターネットの門戸が開かれた技術革新の年であった。

白川郷は最新のテクノロジーとはよほど相容れない存在だ。むしろロストテクノロジーと言った趣向だ。

遠くに見える合掌造り集落を前に、交通整備員の人がこの先から通行禁止ですよ、と言って坂下の駐車場に誘導してきた。

車は多いが、バイクが数台しか無い。

その中に名古屋ナンバーのスーパーカブ50ccが置いてあった。

今日の僕のマシンはHondaGoでレンタルしているハンターカブCT125。

カブ系はこの2台のみ。


白川郷におけるバイク駐車料金は200円

白川郷における観光駐車場で、オートバイは1台終日200円。未来永劫に白川郷が存在し続けるために気持ちよく払う。

丁寧に作成された紙地図をもらい、あるき回ることを想定して飲料水を持ち出した。


陸の孤島、飛騨エリア



白川郷が存在する白川村というのは、かつては陸の孤島と呼ばれた。

現代は国道、県道と言った道路が整備され、多方面からのアクセスを容易にしたが、それでも例えば東京方面からこの地域にアクセスするには、新潟回りか、名古屋回りか、日本アルプスを回避しながら木曽路、安房トンネルを通って出ないと行けないのだ。


村内のほとんどが山

白川村は山林の面積が95.7%を占め、さらに日本海からの湿った雪雲が停滞するために多くの雪を降らせる。

前述の通り、アクセスがさらに困難であるために、産業の発展が周辺地域よりも遅れがちだ。ゆえに、白川郷は非常に貴重な合掌造り集落が残されたと言える。


今も生活が営まれている



白川郷は現在も村民の生活が営まれている。

村内を歩けば、至るところに村民の生活を見ることができる。犬の散歩、洗濯物、テレビの音…しかし、これらも全て含めた上での白川郷なのだ。

この地域が類まれなのは、太古から受け継いでいる合掌造りの家屋と、そこに流れる歴史の蓄積、未来へと続く住民たちの生活の息吹が存在するからだ。

宿主が不在の歴史的建造物、ではないのだ。


車とバイクの違い

オートバイに乗れば、普段では見落としがち、興味のないようなことも意識が向くようになる。

遠い山並みに旅情を求めたり、風の匂いに季節の移ろいを感じ取ったり、何気ない街角が違ったように目に映ったりする。


免許取得のきっかけが違う

僕の場合ではあるが、車に乗り始めというのはつまり、社会人になって車の運転が必要になったから、というきっかけであって、車が好きだったからとか、車で旅行がしたいからという動機で免許をとったわけではない。

おそらく多くの人が同じ理由ではないだろうか?

だからだろうか、車は実用性と必要性に迫られて、という感じが根底にあるゆえに車に乗ったところで遠い場所に旅情を求めたりすることがないのだ。

だから、車に乗って旅行をしても多くの景色を見過ごす。

車内が空調完備、音楽やラジオをいい音質で聞けるという状況も、より外界の景色に意識が向かない理由だと感じる。

バイクはどうだろう。

通勤で安上がりな交通手段としてのバイク免許取得、という人は一定数存在するものの、多くが移動することに歓びを感じたいからではないだろうか?車と違って出発点が異なるため、ライダーはごく自然に外界に意識が向く。

基本的に剥き出しの身体で、風圧を受け、雨風や排ガスに晒される環境だから、嫌でも自然と向き合うことを求められる。

心は同時に内向きに向かいながら、外にも向けられる。

頭はだんだんと空っぽになっていき、バイクを操縦する際の緊張感と、風の中に溶け込んでいく至福のリラクゼーションを同時に味わえる。

バイクに乗っていなければ、ここ白川郷にも行こうなんて思いつかなかったかも知れない。

仮に車で行こうとなったところで、移動中の面白さはバイクに敵わないだろう。

白川郷のような場所が現存し、それを目のあたりにできる幸せを僕はオートバイから享受している。


水が美味ければ料理も美味しい



村内をマイペースに歩いていると、用水路の水量と清流さに驚く。

この水だけでどんな美味しい料理を口にしているのだろう?と思う。

水が美味しければ、料理も美味いはず。


ひときわ大きい合掌造りに出会う。

中は4層構造になっているが、どの箇所も釘は使われていないことを聞き、驚く。

かんたんに言えば、木材と縄の組み合わせだけで住居を作り上げ、更には豪雪の重みにも耐えているのだ。

当時の飛騨の人々の技術力の高さを思い知らされる。


囲炉裏の役割



大変に古い住居に共通するものとして、囲炉裏の存在がある。

囲炉裏は大家族制における、秩序の維持と、コミュニケーションの場としての役割があった。

秩序の維持というのは、囲炉裏を囲んで家長を筆頭として、座り順が決まっていたのだ。

さらに囲炉裏の火は、夏でも絶やすことはなかった。

いくつかの古民家を、僕はオートバイツーリングの中で見学してきたが、囲炉裏はいつも煙たかった。

ここに昔の人の知恵がある。

囲炉裏で上がった煙は、天井裏を燻して、害虫の発生を防止する上に、家屋の耐久性を向上させてきたのだ。


すすだけ

煤竹、というものがある。

名前の通り、煙によって燻された竹材のことだが、市場では古いものほど高値で取引されていると、青梅の津雲邸で学芸員が教えてくれた。

現代において、歴史を経た煤竹の存在はそれだけ貴重なのだ。

長年の囲炉裏の煙で燻された煤竹は黒く艷やかである。

当時の人々からすれば、魅せるための存在ではなかっただろう。

これはロストテクノロジーとなって、現代において希少価値と芸術価値を発揮させているという一例だ。


バイクで心と耳を開く



僕は観光地では現地の人や学芸員のお話に耳を傾けるように意識している。

多くの「知」をインプットしておくことによって、思いも寄らない関連性や、理解を深める助けになることを知っている。

もはや、僕のツーリングは「知性の旅」であって、闇雲に峠を速く駆けたり、観光地をただの休憩地として扱うのは終わったのだ。

汗をかきながら坂を登っている。

白川郷を見下ろせる高台に向かっているのだ。



ここから見た景色は、まさに山の中の村であり、陸の孤島を思わせるものだった。

僕の人生という歴史に白川郷へ訪れたという無形の記憶と、白川郷の歴史の中に立ち会えたという満足感で僕は満たされた。


静かな白川郷を楽しみたいなら「旧遠山家民俗館」へ



白川郷は多くの観光客で賑わっているが、ここ旧遠山家民俗館は大変静かだ。
観光客による賑やかさは一切ない。僕は白川郷に行く前に、この旧遠山家民俗館に立ち寄らせて頂いた。
ここではじっくりと合掌造りの内部を見学し、当時の生活を知ることができる。
エリア
御母衣
アクセス【最寄バス停 バス停からの距離】牧より徒歩約10分
住所
〒501-5506 岐阜県大野郡白川村御母衣125
TEL05769-5-2062
入館料(個人)大人: 300円 / 小人:150円
団体価格(25名以上) 大人: 240円 / 小人: 120円
営業時間「4月-11月」 9時~16時
「12月-3月」 10時~16時
休館日水曜(祝日の場合は前日休)
※白川郷観光協会HPより引用


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