フルコンバ

▶ぶどう



追いかけていた。ここは大垂水峠。気持ちよく走っていたら、アウトから抜かされた。

しかもハミキン区間である。相手はリッターバイクのようだった。

僕は中免で400ccのSSに乗っている。この辺では速いと評判で仲間内でも腕には自信があった。

フルスロットルで件のリッターバイクに挑むが、一向に距離は縮まらず、むしろ徐々に引き離されていく。

相手は軽快なリズムでコーナーをクリアしていく。僕はコーナーを抜けるたびに相手のテールを見失うことに焦燥感を覚えた。悔しい。400ccでも馬力があって速いマシンだ。自分の技量でリッターバイクをカモり、抜けると思っていたのに。直線にかかった時、件のマシンはとうとう見失った。

峠の麓にあるコンビニにマシンを滑り込ませ、一息つこうとコーヒーを買う。臨戦態勢だったので、まだ心臓がバクバクしている。会計中の客がついさっきのライダーだったと気づいた。顔を見るとどうやら自分と同年代の様だった。改めて見ると、上下革のライダースジャケットとパンツで、着慣れている感じが服のシワで分かった。

外に出てオートバイのところに戻ろうとした時、喫煙所に件のライダーがタバコを吸っているのを見た。

その時、知人に声をかけられた。絶好の機会だと思った。ライディングの腕で勝てないのなら知識で上に立とうと思いが掠めた。知人はタバコを吸うので、それとなく一服を誘って、件の彼とは距離を少し離したとこに身を置いた。

彼の耳に入るように意識しながら僕はネットで見聞きした情報を得意げに知人に語った。知人も時々、討論の形となり僕は大げさすぎるほどのトーンで話をした。件の彼は、この様子をどう見ているのか、耳にしているのか考えると満足であった。彼はしばらくして立ち去った。

僕は件の彼がいなくなったタイミングで知人にこう言った。

「いやーさっき峠でバトルになったけど、膝スリでリッターバイクカモってやったわ」

今回も僕の名声は守られた。


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週末は森にいます