▶９０の過去
数年ぶりに走る。山間の気持ちの良い道だ。
愛車はCS90。走り慣れた相棒だ。
ふと、見たことのあるカラーのBMWボクサーを見かけた。きっと彼だ。そう思い、追いかけた。
上り坂で大きく引き離され、見失ってしまった。見覚えのあるカラー、革ジャンの格好、ナンバー…彼に違いなかった。
峠に出た。開けている。目の前にCS90を見ながら、ベンチに腰を掛けて回想する。
CS90…見た目が好きで半分は衝動買いのような状態だった。中免は持っているが、スタイルが好きで飽きずに今もこうして乗り回している。
ツーリングでよく置いていかれた。原付きに間違われ、車に無理な追い越しをさせられたりは慣れたが、同じオートバイ乗りでさえもそういうことが何度かあった…。
魔が差した。僕はベンチから立ち上がり、CS90のハンドルに手をかけると峠道を戻る方向にステアリングを向けた。
今戻れば、バイク屋の開店には間に合う。開店間際だったら客も少ないだろうから、じっくりと品定めができる…。
彼は、携えていた自分と愛車の影を振り払うようにアクセルを思い切り開けて下って行った。
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