フルコンバ

▶陣馬山

二人が人気の無い峠に到着したのは日没一時間前であった。

仕事をさっさと終え、車を駆り到着したこの峠は八王子市と相模原市の間にある陣馬山のところである。

片手に紙袋、もう片方にカメラバッグ。Kは小さな手提げ袋を提げ、ぐるりから見ればとてもこれから山を登る客には見えないのだ。


陣馬山は峠の駐車場から2つのコースが案内されており、一方は平坦ルートでもう一方は階段ルートである。荷物を提げた二人は、ごく自然に平坦ルートを選び暗くなりつつある参道へ歩を進めた。二人の関係はどう見ても友人に見えるが、実際のところお互いを完全には知らなかった。


数日前、Sが仕事の合間にKにハイキングをしようと誘ったのが発端だった。

二人は同じ寮なのですれ違えば挨拶をする程度の認識であった。

Kを誘い入れた時、私的なことのやり取りをしていないゆえの、僅かな戸惑いが一瞬の表情に出たが、次の瞬間にはOKの返答をしたのだった。


自身の日常生活の中で登山という単語には縁がなく、Sへの人間的好奇心から、誘いを受け入れたものの、しばらくして呈示された日がどう考えても登山ができるようなものではなかった。それをSに問い合わせると、本人は笑って15分程度だからという。山に縁が無いSは15分の登山というのはあり得るのか疑問であった。

木々の間から見える黄昏を見上げながら、二人は静かに歩いている。Sは後ろに続く、Kについて考えていた。


Kは去年の10月に職場に転職して来た。その時は特段、意識することもなくお互いの作業場が離れているのでやり取りすることもなかった。

変化が生じたのは、ある日の寮前でオートバイを磨いていた時にKがそのオートバイについて話しかけて来た時であった。職場に同じ趣味を持つ人が居なかったのを寂しく感じていたSは、同盟の存在に心を躍らせた。


当時、Kは諸事情でバイクを手放してしまって、今は乗っていない。いつかまた乗りたいと言ったぎりである。

Kについて意識を再び向けるきっかけになったのは、Sが仕事終わりに気晴らしにオートバイで出掛けようとした時であった。暖気を終え、ヘルメットを被り半クラッチを当てようとした時、ふと視線の向こうにKが笑みを浮かべて見送ろうとしている姿を認めた。どうやら途中からの一部始終をしばらくあの場から眺めたいたような風であった。その時から、Sの中でKの存在意識が育って来たのだった。


Sは登山も趣味であり、気軽に登れてぐるり風景を堪能できる陣馬山に登りたいと考えていた。

その時に相方としてKが候補に浮かんで来たのは自然なことであった。

わずか15分という時間は登山を趣味にしない人であっても抵抗がないだろうし、何かを話すのにも十分な時間であると思った。事実、歩き出して5分もして森林の爽やかな空気に感銘を受け、二人の会話は弾んだ。稜線がすぐそこにまで迫った。


果たしてそこは評判通りの眺望であった。陽が奥多摩の山々に沈もうとしている。

二人は小さな声を漏らして山頂にある小高い丘を上がる。


手提げ袋からコンロを取り出し、カレーを煮詰める。その間にも陽は沈んで行き、外科医から下界から淋しげなチャイムが鳴り響いていた。


「もっと早くから出会って友達になりたかったなぁ」とKは呟いた。Sが照れ笑いしていると、「今度はオートバイでここの峠まで走ってみよう」と続けて言った。


それが僕らの親友としての最初で最後の約束だった。


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週末は森にいます