BMSには2つの回路遮断機能がある「物理的」「電気的」な保護
リチウムイオンバッテリー向け二次保護回路用ヒューズ素子の仕組みとその歩み
リチウムイオンバッテリーの二次保護を担うSCPとは?
リチウムイオンバッテリーが世界で初めて商品化されたのは1991年、今から約30年前のことです。
それまで二次電池(充電して繰り返し使える電池)のスタンダードだったニッケル水素バッテリーに比べて約3倍の電圧を持ち、放置している間の自己放電量も少ないリチウムイオンバッテリーは、ノートPCをはじめとするモバイル電子機器のバッテリーに適していたことから、世界中で急速に普及しました。
従来の二次電池の常識を覆すほどの長所を数多く有しているリチウムイオンバッテリーですが、電解質に引火しやすい有機溶媒を使っていることと、そのエネルギー密度の高さゆえに、使い方を誤ると発熱や発火を起こす危険性が常にあります。
そのため、現在発売されているリチウムイオンバッテリーのセルや充放電回路には、過電流、過充電など事故につながるトラブルを防ぐための「一次保護」と呼ばれる制御機能が必ず組み込まれています。
しかし、非常に優れた電子回路もまれに故障することがあります。
そこで1990年代初頭、リチウムイオンバッテリーの一次保護機能が万が一機能しなかった際にも安全が確保出来るよう「二次保護」の機能を果たす部品の開発がソニーケミカル(当時)に依頼されました。
結露検知センサー技術の応用
現在の「SCP」のスタートは、ビデオカメラ用の結露センサーの応用からでした。
リチウムイオンバッテリーに異常やその兆候があった場合には、最初にBMS(Battery Management System)内の一次保護回路が対応し、電池が安全な範囲を逸脱しないよう制御が行われます。
ほとんどの場合、一次保護の対応で事なきを得ます。
ただし、リチウムイオンバッテリーの場合、異常がもたらす結果が重大であるため、万が一への備えが必要で、それが二次保護になります。リチウムイオン電池は、エネルギー密度が大きく、しかもユーザーが身近に、かつ多様な環境下で使われることが多いため、二重の保護を設けているのです。
二次電池は充電の進行にともない電池温度が変化(基本的には温度上昇)していき、充電状態と電池温度の挙動に関連性が存在します。
そのため、まずオーソドックスに電池温度を監視することを考えました。
当時、ソニーケミカルでは湿度変化を検知して抵抗値が変化する結露検知センサーをカムコーダー向けに出荷していました。この技術を応用してPTCサーミスター(温度が上がると、ある温度を境に抵抗値が急激に上昇する素子)と同じようなはたらきをするセンサーが出来ないか模索しましたが、さまざまな問題からこのアプローチは実現しませんでした。
新しい方法で回路遮断にブレークスルー
「既存技術の応用ではなく、今までにない新しいやり方で回路を遮断できないか」そう考えたことが、SCPへのブレークスルーを生み出します。
従来のセンサー技術で回路を遮断した場合、温度が元の状態に戻れば、ふたたびその回路は使えるようになります。例えば、既製品のリチウムイオン電池の端子をショートさせても、内蔵されているBMSが瞬時に短絡検出を行い、回路を開放することでバッテリー自体のダメージを防ぎます。そして、その短絡状態が解除されると、BMSが自己診断をして速やかに復帰します。
しかしリチウムイオンバッテリーという万全の安全が求められる電池を考えたとき、一度でも異常と判断された電池を安心して使い続けることができるでしょうか?
「何らかの重大なトラブルが発生したならば、もうその電池は二度と使えなくなったほうが安全ではないか」と考えるようになったのです。
一次保護が機能しない状態で、過電圧、過電流が一度でも起きたら回路を完全に遮断するという方向へ発想を転換して、新たな開発がスタートしたのです。
さまざまな試行錯誤を重ね最終的に採用されたアイデアが、「回路にヒーターを組み込み、ヒーターの熱でヒューズを溶断する」という仕組みでした。
この方式を採用したのは「過電圧」と「過電流」の両方のトラブルに対応することが出来、なおかつ物理的に回路を遮断することができるからです。
最初に「SCP」の電気的構造を回路図で示します。左は一般的な回路図で使用される等価回路図、右は「SCP」の内部構造を反映させた3次元的回路図になり、実際の「SCP」はヒーター(抵抗器)の上にヒューズが立体交差する形で配置された構造となっています。
ここからは3次元的な回路図を使って「SCP」の動作について説明します。
放電、充電が正常に行われている際の電流の流れを以下に記します。
電子回路の短絡などで過電流が発生したときには、ヒューズエレメントがジュール熱で溶断され回路が遮断されます。過電圧の状態、すなわちバッテリーが過充電になると二次保護ICが異常を検知、ヒーター回路のスイッチになるFETをON状態に変更します。
このときT1、T3の両方向からヒーターに電流が流れ発熱します。この熱がヒューズエレメントに伝わりヒューズが溶断、回路が遮断されます。同時にヒーター回路も切断されることになり、ヒーターの発熱もここで停止、「SCP」の保護動作が完了します。
当初この回路はフレキシブルプリント基板(FPC)を基材としたものが採用されていましたが、表面実装に対応するため、基材となる材料をセラミック基板に変更しています。こうして、「SCP」の原型が完成したのです。
1994年に二次保護回路に「SCP」を搭載したリチウムイオンバッテリーが上市されました。
「SCP」による二次保護機能を持ったリチウムイオンバッテリーはすぐに多くのコンピューター・メーカーの製品に採用されました。
基本特許の保護期間はきれたものの現在もノートPCなど多くの製品でデクセリアルズの「SCP」がリチウムイオンバッテリーの二次保護回路用ヒューズとして採用されています。
発売から約30年、「SCP」の需要はリチウムイオンバッテリー市場の拡大にともなって広がりを続けています。現在はノートPCのバッテリーだけでなく、大型の電気製品、コードレス電動工具や産業用の蓄電池、電動アシスト自転車、電動バイクなどに多くのリチウムイオンバッテリーに使われるようになりました。
小型バッテリー向けではノートPCやタブレットPC、さらに急速充電が可能なスマートフォンにも2016年から採用されているほか、医療機器のAEDにも搭載されています。自動車をはじめとする世界のモビリティの動力源は、ガソリンエンジンからモーターへの移行が始まっており、それと歩調を合わせて「SCP」も大型化・大電流への対応が求められています。
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